4. 校長通信  白南風(しろはえ) 第4回

 

白南風(しろはえ)とは、「梅雨明けのころに吹く、雨雲を一掃するようなさわやかな風」という意味がある言葉です。住吉高校を吹き渡る清々しい風と、生徒の皆さんのさわやかさ、たくましさをイメージしました。第4回は、想像する です。

住吉高校の皆さん、学期も今日で終業です。3年生にとっては、最上級生として体育祭を引っ張り、部活動の仕上げに向かいながらも、卒業を見据え、進路について真剣に考える日々だったと思います。2年生は、後輩を迎えて、中堅学年としての自覚が日々育ってきたことでしょう。年生は、高校生活にも慣れ、少し周りを見渡せるようになってきたというところでしょうか。

住吉高校が学期制を採用しているのは、長い休みに入る前に、一つの区切りをつけることで、振り返りをしてもらいたいからです。学習面はもちろんですが、自分が何を考えどう過ごしてきたのか、丁寧に振り返り、検証してください。そして、改善すべきことは、きちんとしてください。よろしくお願いします。

と、いうわけで、明日からの夏休み、それぞれにやりたいこと、やるべきこと、やらねばならぬこと、色々あるとは思いますが、やっぱり夏休みです。楽しむことも忘れないでください。安全と健康に留意して、良い夏休みを過ごしてくださいね。

さて、「私たちの脳のもつ能力の中で、想像する力は、特に素晴らしいものだと思います。想像力は、まだ達成されていない未来の自分を見せてくれます。」これは、月に皆さんにお配りした「白南風 第回」に書いた言葉です。その時は、パラ陸上の選手の話を紹介しました。

しかし、残念なことに、このすばらしい想像力が、誤って機能することがあります。

例えばテロリストたちは、「ある未来」を想像して、その実現のために多くの人々を殺傷し、自らも自爆することを厭いません。テロリストが想像する未来には、自分たちと違う価値観を持つ者はいません。それこそがパラダイスだと信じ、そんな未来が実現することを想像して、身勝手な自己満足に浸りながら、恐ろしいテロ行為に及びます。

平成2826日に発生した「津久井やまゆり園」での痛ましい事件を、皆さんは覚えていますか?あの事件も、一人の人間のゆがんだ想像力が引き起こした事件だったと言えるのではないでしょうか。

逮捕された犯人は、「重度の障がい者は、周囲を不幸にする。良い社会とは、重度の障がい者が存在しない社会である」と決めつけ、その身勝手な考えを実現しようと、許されない行為をしました。一個人の考えを、「社会全員にとっての正義」だと言い切り、人の命を奪うことでそれを実現するという、誤った想像力に支配されて、罪もない多くの人を犠牲にしたのです。

その幼稚で独りよがりな想像力は、凶器を振り下ろす彼自身を、正当化する力となったのでしょう。そうでなければ、計画的に短時間で、46名もの人を死亡させたり傷つけたりすることなど、到底できないはずです。誤った想像力が、彼を、人としての限界を超えた怪物にしてしまったのだと思います。

人は死んでしまうと、命と共にその人の未来や可能性も失われます。確かに、生きていれば迷惑を掛けることもあるでしょう。でも、誰かに喜びや感動を与えることもあるはずです。人を殺すということは、その人の命だけでなく、その人が幸せにするはずだった誰かの喜びをも奪うことだということが、彼には想像できなかったのでしょう。あまりにも悔しく悲しい事件でした。

でも、「津久井やまゆり園」の事件を、「一人の異常者の起こした事件」と片付けて、よいのでしょうか?私は、我が身に置き換えて考えてみることも必要だと思っています。

イメージトレーニングで運動能力を高めるアスリートも、ゆがんだ楽園を夢見るテロリストも、同じ「人間」です。人間は、想像力で自らを高めることができますが、恐ろしい怪物に変えることもできるのです。

例えば、何をやってもうまくいかず、全てが嫌になってしまいそうな時や、とても大切にしていた存在を失ってしまった時などに、人は、自分を含めた世界全体を憎んでいる(または、憎まれている)かのような気持ちになることがあります。

でも、それは、自分の中にある「暗黒面」から生まれた誤った想像力が、拡大してそんな気持ちにさせているのだと思ってください。そんな時こそ、誤った想像力に飲み込まれないように気を付けてください。そして、自分の中にある「暗黒面」から目を逸らすのではなく、その存在を認めたうえで、それに負けない強さを持って、できるだけ(時には、少し無理をしてでも)、自分を高めるような想像をしてください。

例えば、誰かを幸せにしている(そして自分も幸せを感じている)姿や、誰かと手を取り合っている(そして自分も認められている)姿などです。理想の姿を描いてください。

「やまゆり園」での事件の後、神奈川県は「すべての人のいのちを大切にし、差別や偏見のない、誰もが尊重される社会の実現」を目指し「ともに生きる社会かながわ憲章」を定めました。ダウン症の女流書家である金澤翔子さんの「ともに生きる」の文字からは、互いの個性や多様性を認め合う、より良い社会の実現に向けて行動しようという、力強い意志が感じられます。ぜひ、神奈川県のホームページからアクセスしてみてください。

明らかに誤っていても強いメッセージ性を持った重大事件が起こると、人間の心は諦めの気持ちに支配されそうになったり、「暗黒面」に引き込まれそうになったりします。

そうならないために、理想を明確な言葉にし、堂々と掲げることは、意味があるのです。

最後になりましたが、皆さんにお礼を申し上げます。6月3日に校庭で撮影した40周年記念の人文字のことです。全校生徒の協力で見事に描かれました。並んでいる皆さんからは、どんなふうに映っているかは見えないし、結構暑かったのに、長時間にわたり本当によく協力してくれました。きっと、住吉高校の歴史を思い、人文字の完成映像を想像してくれていたのだと思います。皆さんの想像力と、がまん強さと優しさに感謝!です。

          令和元年7月22日 校長 大貫 晶子